恵方巻

先日30歳になった。何人かの方からプレゼントを頂いてしまった。ありがとうございます。

これ以上は特に言いたい事もないので、今日の話題にいきたい。

 

さっき電車から降りたら、駅前の総菜屋の店先が明らかにいつもと違う様子だった。パックに入った黒い塊が、何段にも積みあがっていた。恵方巻だ。

「そういえば節分か」と思い、まぁコンビニで買うよりは…と思ってつい買った。Twitterなどで「アルバイトが予約ノルマを押し付けられて自腹買い、そして炎上」みたいな話題をよく目にするので、コンビニの恵方巻に対してはどうにも社会の闇を(勝手に)感じてしまう。

その点お総菜屋なら、分かんないけどそういうのとは無縁な感じがするのでつい買ったのだ。

 

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これが買った恵方巻。パッケージが何ともたまらない。プリミティブでよい。

 

この恵方巻を、つい先ほどリビングで食べた。

同じ部屋にいたルームメイトから「あ、恵方巻」「食べるんすかw」と言われた。

けして「恵方巻www食べるんすかwwwww」みたいな盛り上がりはない。せいぜい「食べるんすかw」だ。だって恵方巻だもの。

 

方位磁石アプリをiPhoneにインストールして、今年の恵方らしい「東北東」を調べた。壁の方だった。こっちかー。しょうがないので、目の前の白い壁を眺めながら恵方巻にかぶりつく。

 

…。

 

前回恵方巻を食べたのは多分実家に住んでいた頃なので、わざわざ自分で買って食べるのはこれが初めてということになる。

なんで今年に限って食べる気になったのか、酢飯を咀嚼しながら考える。コンビニでなくお総菜屋でたまたま見かけたから。バスが来る時間を多少持て余していたから。それともう一つは「自己暗示としての縁起」というものに多少価値を感じはじめたから…だと思う。

なにか試練があった時、頭の片隅で「そうえいば今年は恵方巻食べたじゃない」と思える。根拠のない小さな自信をかき集めたいお年頃だ。

 

…。

 

味に関しては特に感想もない。「総菜屋で太巻きを買って食べたらこんな味だろうな」という味だ。あと寒空の下で売られていたものなのでかなり冷たい。

ちなみにさっきのルームメイトは恵方巻を食べる自分の隣でテレビゲームをしている。

 

…。

 

その形状ゆえについ「そのままズッポリ飲み込み型」で齧っていってしまう。が、無理にそうやって食べ進めていたらいよいよ喉と腹が苦しくなってきてしまった。しゃっくりが出そうだ。一旦休憩して横隔膜を落ち着かせる。

俺何やってんだろう。三十路にもなって。こんな寒いリビングで。人がゲームしてる隣で。一人で。寝ぐせ治んないままで。

 

…。

 

安全策として、両サイドから一口ずつ、無理のないサイズで齧って攻略していくようにした。これなら無難だ。何事もやり進めてみると、自分に合ったコツが見つかる。

そういえば恵方巻は大阪が起源という説があるらしい。「そうそう、商売もコツコツと少しずつ、やで……」と、恵方から関西弁の神様が自分に囁いてくる気がする。知らんけど。

 

…。

 

卵焼きとキュウリと共に残った最後の酢飯のかけらを口に放り、恵方巻の儀は終わった。うーん。

恵方巻を食べる前に飲んでいた、もうすっかり冷たくなったコーヒーの残りを飲み干して、自分の部屋に戻った。夕飯はもう要らないか、さっき一緒に買ってきたイカや大根の煮物を夜食につまめばいいだろう。

 

今晩は割と多くの作業を頑張って進めないといけないので、取りかかる前からちょっと気が重い。

 

「コツコツと少しずつ、やで……」

 

~Fin~